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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
健ちゃも出るようにして、お互いに呼びあってしていたら、どんなによいかと思う。
キヌは村へ帰るようなことを云っていた。よく分らないが、帰らなければならなくなるだろう、と云っていた。――よく話をきいてみれば、あれだって可哀相なものだ。あれが悪いばかりでない。百姓の生活だよ。これから村がダンダン底へ落ちこんで行くと、キヌのような女は、殖えらさる一方だ。
健ちゃのことはよく聞きたがるが、節のこともあるらしいので、知らせていない。
「小樽」と「S村」――上ッ面から見ただけでも、前に云ったことがハッキリ分る。――製缶工場、拓殖ビルディング、一流銀行、××工場、運河、倉庫、公園、大邸宅、自動車、汽船、高架桟橋……それ等が、まるで大きな渦巻のように凄じく入り乱れ、喚いている。その雑沓する街を歩いていると、世界の何処に、あの泥だらけの、腰のゆがんだ百姓というものがいるか、と思わせられる。草、山、稲、川、肥料、――これだけが農村だ!――だが、小樽の人は本当の百姓を眼の前で見たことが、一度だって無いかも知れない。
又書く。
ただ俺達は何時迄も「百姓」「百姓」ッて誤魔化されていないことだ。