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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
」
「昨年もああだし、岸野さんも何に云い出すか分らねえべ。」
母親は鼻をぐじらせた。――「お前どころでねえ、五十何年もよくやってきたもんだて、百姓ば!」
「何時かええぐなるべ、今度こそええぐなるべッてな。――んで、最後に、お気の毒様でしたか、ええもんだ!」
母親は黙って、鼻をぐじらせた。
田から上った稲を一粒一粒の米にする。ところが、その米が残らずそのまま岸野に持って行かれてしまう。――それがハッキリ分っている。分っていて、その米を一生ケン命籾にして、殻をとり、搗いて白米にしている。何んて百姓はお人好しの馬鹿者だ!
武田がひょっこり顔を出した。
「精出るなア。」
「何によ。――見れ、この籾。」――母は筵の上にたまった籾を掌でザラザラやって見せた。――
「今、謀叛でも起したくなったッて話してたとこだ。」
武田はとってつけたように、大きな声で笑った。
「な、健ちゃ、少し相談したいことがあるんだが、仕事終ってからでも、俺の家さ寄ってけねえかな。」
健はだまっていた。
「今度の不作で、なんだか騒ぎでも起りそうでよ。村の不名誉でもあるし、相互扶助会としても工合が悪いし……」