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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
今更のように自分の身のまわりを見廻わす。そうだ、十年も経ってしまっている。――そうか。そんなら、死ぬだけは内地の村で死にたい。
誰か、内地の村に行ってくるというものがあると、同じ「国衆」のものが集ってきた。村に残っている自分の本家や別家の人達に、事づけを頼んだり、何かを届けてもらったり、村の様子をきいてきて貰ったりした。
誰も何時かキット内地に帰る、そのことばかり考えている。――追われるようにして出て来た村を、今では不思議な魅力をもって思いかえした。
夜が長くなると、夜中に何度も小便に起きた。半分寝言を云いながら、戸をあけると、身体がブルンブルンッとすくむ。――秋の、深く冴えきった外はひっそりとして、月が蒼々と澄んでいる大空に、高く氷のようにかかっていた。――若い女でも、出口にそのまま蹲んで、バジャバジャと用を達した。
「もッきり」
収穫が終ると、百姓の金を当にして、天気さえ良ければ、毎日のように色々な商人が廻ってくる。写真を沢山さげた仏壇を背負って、老人が鐘をならしながら表へ立った。太物をもった行商もきた。越中富山の薬屋が小さい引出しの沢山ついた桐の箱をひろげて、ベラベラ饒舌りながら、何時迄たっても動かなかった。