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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
馬の絵をかいた薬臭いちらしを子供達にくれて、無理矢理に要らない薬袋を置いて行った。――然し、「長い」北海道の冬が待っていることを考えれば、襦袢の切れもうっかり買えないのだ。
正月を少しでも矢張り正月らしく送りたいために、小作人のうち又働きに出るものは出た。――娘達は、大根や馬鈴薯や唐黍などを荷車につけて、H町へ、朝暗いうちに、表をゴトゴトいわせて出掛けて行った。自分達は荷馬車の上に乗った。提灯を車の側にさした。声のいい女は流行歌をうたった。H町へつくと丁度夜が明けかける。
朝市に出るものは出、一軒一軒裏口から「おかみさん」と云って廻って歩くものは歩く。そして昼頃、空になった荷車にのって、今度はキャッキャッとお互いにふざけながら帰ってきた。――売っただけの金で襦袢や腰巻の切れを買ったり、餅屋に寄って「あんころ」などの買い喰いをした。
「のべ源」はH町で青物を売って、少しでも金をつかむと、電信柱に馬をつないで、停車場前の荒物屋に入って、干魚を裂きながら、コップの「もッきり」を飲んだ。
大概の百姓は帰りに寄って「もッきり」をひっかける。――店先には百姓の馬車が何台もつながれていた。