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ふしぎなとり
不思議な鳥
小川 未明
「趣味」1910(明治43)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,797 字 · 16 页
といって私は、棚の上から煤に塗れた絵具皿を取り下した。皿の上には埃が溜っている。一息ぷっと吹くと折から窓から射し込んだ冬の日の光線に黄金色の焔が上った。無数の小い塵埃は一つ一つ光って明るい海を泳いでいた。吉太は慌ててその皿を奪うように握ると垢染た懐の中に隠してしまった。軒の柱には、黒い鳥が籠の中に入って懸っている。私は、その鳥籠に目をやって、
「黒い鳥だな。」と、いった。
吉太は、はや帰りかけていたが、この時振り向いて、
「漸々毛が抜け変って赤くなります。」といった。私は、好い加減な偽をいうのだと思って、別に「然うか。」とも答えなかった。
籠は極めて粗末なものであったが、中には青い色の餌猪口と灰色の水猪口とが入れてあった。思うに吉太が鳥と共にくれたのである。私は長くこの籠と餌猪口とを使っていた。当座この黒い鳥が何んとなく私には陰気に見えたのである。頭から、眼付まで、可愛らしいというより、その中に厭に人を魅する力があるような気持がした。
けれど、いつも同じい戸口の柱に懸けて置いて見慣れるに従って、いつしかこの鳥は私に親しんだのである。やがて冬は過ぎた。