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ちゅうよう

中庸

坂口 安吾

「群像 第八巻第六号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,104 字 · 33 页

青空文庫

「私も自棄を起した覚えはあるが、結局熱湯はやけどするばかりで、飲むことも浴びることもできないのだね。生きるためにはぬるま湯に限るものだ。無為無能と観ずればたたみの上で平凡に夢が結べる」

「おじさま。お子さまは?」

「嫁に行ったよ。死んだ男もいる」

「この前、いつ、使ったのかな。おじさまなんて言葉。甘えたくなったのかしら。人をだます力が欲しいや」

「私の家へきて、休養しなさい」

「駄目なんです」

「なぜだね」

「土と藁の中から目をさまさなければいけないから。時々、たばこいただきに行きますわ。藁の中で見た夢、話してあげましょう。おばさまに、よろしく」

マリ子は背のびを一つして、立ち去ったのである。

余は墓地から山径をとって家へ戻った。道々余はマリ子ならびにその家族を無理にもわが家へ案内すべきではなかったかと後悔したが、余の語る話をきいた家人が、

「どうして御案内なさらなかったのですか。私が行ってお連れ致して参りましょう」

と立ち上りかけるのを見ると、余の心は変ったのである。

「放っておきなさい。悲しいかな。私たちにはあの娘の行うことを無理にひきとめるだけの位がない」

「こんなことに位なんかがいりますか」