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いぎょ
中谷宇吉郎集 第七巻
中谷 宇吉郎
中谷宇吉郎『中谷宇吉郎集 第七巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:異魚、宇宙旅行の科学、科学と国境、塩の風趣、鳥井さんのことなど、若き日の思い出。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,841 字 · 111 页
塩の風趣
戦争前の話であるが、京橋のあたりに、K鮨という鮨屋があった。材料がよいというので、たいへん評判がよかった。
亡くなった岩波さんは、人に御馳走をするのが道楽であって、よく方々へ連れていって、御馳走をしてくれたものである。K鮨もその一つであった。北海道から出てくると、東京の御馳走は、どれもこれもうまいし、それに味覚のそう発達していない私には、こういう御馳走は、少しもったいないくらいであった。しかし御馳走になるのは悪いものではなく、それに先方が御馳走をするのが道楽の場合には、両者の利害が完全に一致するので、よく方々へ案内してもらったものである。
K鮨は、評判どおりに非常に鮮しい材料を使うので、たいへんうまかった。料理台の上にのっていた、一尺立方くらいの鮪の切身の色の美しさなど、今でも記憶にのこっているくらいである。値段はもちろん相当なものらしかったが、魚の種類によっては、産地または漁船まで、特別に使を出して買いこんでいるということで、少しくらい高くても、むりもない話であった。
ところでK鮨で、いちばん印象に残っているのは、生烏賊であった。というよりも、それにふりかける塩といったほうがいいかもしれない。