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なかざとかいざんの『だいぼさつとうげ』

中里介山の『大菩薩峠』

三田村 鳶魚

「日本及日本人」1932(昭和7)年10月15日号、11月1日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,523 字 · 27 页

青空文庫

そうして主人のみならず、村方の者まで出てお迎えしなければならないのに、この馬大尽の伊太夫は、一向そんな様子もなく、厩に連れて行って馬を見せている。

この五八二頁に、「馬を見せて貰ひたいと思つて、遠乗の道すがらお立寄致した次第このまま厩へ御案内を願ひたいもの」とあるのは、能登守の言葉らしいが、甲府勤番支配というものは、百姓に対してこんな言葉を遣ったものでしょうか。伊太夫は厩から牧場へ能登守を案内して「せめて此の中から一頭なりともお見出しに預かりますれば、馬の名誉でござりまする」なんて言っているが、能登守がその中の一頭の乗試しをして、帰って行く時になっても、一向見送りもしていない。横柄といっていいか、ものを知らないといっていいか、こういうことはこの時代に決してあったとは思われない。

五八六頁になると、お銀がお君の髪を直してやろうといったので、お君が「お嬢様、それは恐れ多いことでございます」と言っている。自分の主人に対してではありますけれども、「恐れ多い」なんていう言葉を、百姓大尽の女中が遣うのは、あまり仰山だ。「恐入ります」というのが当り前でしょう。