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くぼたべいさいくんのおもいで
久保田米斎君の思い出
岡本 綺堂
「伝記」1937(昭和12)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,435 字 · 17 页
随分場合によると、部屋の中に甲冑を著て刀をさした人間が何人も出なければならぬこともありますから、立とうとする時に刀の鐺で障子や壁を破るような虞れがないでもない。また道具の飾り方によっては主要な人物が一方からは見えても、一方からは見えにくいというようなこともある。米斎君はそういう点によく注意して下すって、これはこうしては嘘ですが、芝居だからマアこうしておきましょうとか、ちょっと見た目がよくっても芝居がしにくいような道具じゃ困るとかいう風に、斟酌してやって下すったものです。
役者の扮装や何かにしても同じ事で、考証して下さる方が何でも本当本当ということになると、芝居の方じゃ困る場合が出て来る。実際は短い筒ッポをツンポルテンに著ているのが本当であっても、それが白く塗って女にでも惚れられるような役だというと、どうも恰好がつかない。嘘でも袖を丸くして、長い著物にしてもらわなければ工合が悪いのです。芝居というものはイリュージョンを破りさえしなければいいので、何も有職故実をおぼえに来るところじゃない。もしそんなつもりで来る人があれば、その方が心得違いなんですから、大体その時代らしく、芝居としても都合のいいように拵えればいいわけなのだが、学者の考証家先生になると、なかなかそう行かない。