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くぼたべいさいくんのおもいで
久保田米斎君の思い出
岡本 綺堂
「伝記」1937(昭和12)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,435 字 · 17 页
あとで部屋へ行って、どうして私のいった通りにしないのだ、と聞くと、実は烏帽子を被らずに出ようとしたら、久保田さんがどうしても被らなけれゃいけないと仰ゃるものですから、というのです。だから何時でも素直に聞いてくれるわけじゃない。すべて芸術家気質というものでしょうが、米斎君もたしかにそういう気骨を持っていました。それがため、往々興行主と意見の衝突することがあったようです。もっとも興行主なんていうものは、わけがわからずに勝手な事をいうんですから、仕方がありませんが。
私どもの物などを上演する場合、今度の舞台装置は誰ですと聞いて、久保田さんですといわれれば安心したものです。米斎君は大抵やる前に粗図を画いて、相談してから拵えて下すったので、舞台稽古の時に行って見て、こんな道具が出来たのか、と驚くようなことはありませんでした。粗図で相談してから、本当の図が道具方に廻る。道具方はそれによって見本を拵えて、私の方へ持って来ますから直すべき点があればそこでまた直す。つまり承知の上で出来上るようなものですから、自然当り外れはないわけなのです。ただ再演、三演となりますと、米斎君に御願いして、多少道具の恰好を変えていただくことがある。