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のりあいじどうしゃ

乗合自動車

川田 功

「探偵趣味」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,957 字 · 8 页

青空文庫

彼の指を見た事も明かであった。

「女の掏摸だ。図々しい奴」

彼は刑事に聞かす為めに今一度独語して其処を通り抜けた。

「何かあったのか」

刑事が車掌に小声で訊いて居るのを後ろに聞いた。如何にも新米の刑事らしい感じがした。彼は悠々とデパートの方へ足を運んで行った。が其瞬間、慌しい胴間声が起って再び彼を振向かした。

「たッ……た大変だ大変だ。此中に一人掏摸が居るッ。金時計を掏られた金時計を!」

それは先刻彼から財布と時計とを掏摸られた中年の紳士であった。恰も狂気した様にポケットからポケットへ手を突込んでは、大変だ大変だを繰返して躍る様な恰好をしていた。恐らく世界のあらゆる物が失われても、これ程慌て騒ぎはしまいと思われる様であった。

彼は此等の光景が見えなくなろうとする前、今一度振向いて最後の瞥見をなした。操人形の様な紳士は降り立っても同じ事を繰返して居た。刑事と車掌は何か云って居った。群衆はそれを取囲み始めて居た。と急に紳士は、眼の前にある巡査派出所目蒐けて飛んで行った。刑事も車掌も走った。群衆も続いて駈け出した。彼が最も興味を持って眺めたのは、其中に混って先刻の婦人が居る事であった。