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くたにのさら

九谷の皿

中谷 宇吉郎

「東京新聞」1961(昭和36)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,122 字 · 3 页

青空文庫

鉄斎だって、六十歳以後の絵がよいのであるから、今からでもおそくはない。熱心の度がちがうし、それに天分もあるらしい。めきめき上手になって、亡くなられた安井曾太郎さんだの、矢代幸雄先生だのにほめられている。ほんとに画描きになるかもしれない。

私の方は、どうもはかばかしくない。物理学が邪魔をしているのだろうと、自分では解釈している。花だの、野菜だの、生きているものは、どうも造花か、模型みたいになってしまう。

それで硝子器だの、陶器だのという堅いものを、主として描くことにしている。これは克明にさえ描けばよいので、楽である。九谷の絵ざらなど、たいへん複雑なようであるが、根気よくあの密画のまねをしていると、ちょっと見には、如何にも九谷らしくなる。

娘は自分でも絵を描いているので、おやじの絵の天分は、すぐわかるらしい。「パパはそれに限る。墨絵のダッチスクールの開祖になったらいいわ」と、慰めてくれている。

細君の方は、もっと実利的である。「子供のころに、一毫さんのところに預けられていたのがよかったのよ。紙に描くのはつまらないから、サラにお描きなさい。九谷工になれるわよ」