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くたにやき
九谷焼
中谷 宇吉郎
「理学部会誌」1924(大正13)年11月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,535 字 · 13 页
もう八十日余りになりますと、八十遍も空しい用意をしながら奥さんも平気なものだ。辞して帰る時、N氏は明日こそ本当に描くぞと奥さんに真面目な顔をしていっていた。奥さんはにっこり笑って頷いているだけだった。
それから、N氏は金沢にいる間に、色々の家に遺っている古い時代からの九谷の精密な摸写をつくって見たいといっていた。色々の発展や分岐の跡が詳しく分ったら、面白いだろうと思うが、随分困難な仕事だろうと思われる。アルゲランダに比すべくもなくとも、それ自身の中に或る価値のある仕事だろうと思っている。どうなったか知りたいものだ。
大学へ来てからはすっかり縁を切った。当時をしのぶよすがさえも全部失った。或る意味からいえばさっぱりした。N氏の所から、震災では九谷焼も勿論駄目だったろうねといって、鳥※(「穴かんむり/果」、第3水準1-89-51)禅の幅をくれたが、床のない下宿の四畳半では、空しく行李の中でねている。今度行ったら額を貰って来なければなるまいと、勝手なことを考えている。
(大正十三年十一月二十一日)