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ちちをさす

乳を刺す

邦枝 完二

黒門町伝七捕物帳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,474 字 · 35 页

青空文庫

「………」

「わたしは、間もなく切り上げて帰りましたが、家へ帰っても口惜しくて、どうしても眠られません。それで、どうかしてもう一度お由利さんと、とっくり話し合いたいと思いまして、ふらふらと、家を出てしまいました」

「きいてくれねえ時にゃ、ひと思いに、殺す気になってたんだな」

「飛んでもございません。だいいち、刃物も持っては居りません。ただ、心を尽くして話しましたら、また考えも変わるだろうと、それだけが、望みでございました」

「それで、裏からは、どうして這入ったんだ?」

「家を出ます時には、塀を乗り越えてでもと、思って居りましたが、何気なく裏木戸を押してみますと、わけもなく開きましたので……」

「すると、閂が外れていたというんだな」

「左様でございます。それから庭伝いに、縁側まで行って、そっと雨戸を開けまして、枕元の方へ行きますと、有明行灯の灯で、ぼんやりと見えましたのは、両のこぶしを握りしめている、裸のお由利さんの死骸でございました」

「うむ」

「あッと云ったっきり、わたしは、何も見えなくなってしまいましたが、間もなく気がつきましたのは、こうして居れば、自分に人殺しの疑いがかかる、ということでございました。