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ちぶさ
乳房
宮本 百合子
「中央公論」1935(昭和10)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,932 字 · 56 页
今度は二郎が黙って袖子と並んで立った。そして自分でも、もう一本の切れた繩の端を握り、袖子よりもずっと荒ぽく、調子をつけて振っている。振っていると思うと、二郎はいかにも男の児らしい敏捷さで、ひょいとゆれているその繩の先へぶら下って、脚をちぢこめた。止りそうになるとゴム長で地べたを蹴り、またぶらん、ぶらん振り直す。盲滅法に地べたを蹴ろうとする二郎の足は、やっと地べたに届いたり、そうかと思うとたった二分ぐらいのところで宙を掠めてしまったり。――
ひろ子は、いつかつりこまれ、さながら二郎の背中を押してでもやっているように、調子をあわせ無意識のうちに自分まで顎を動かした。
袖子は、繩を持ちかえたが、そのまま目を凝して二郎のやることを観察している。
それに飽きると二郎は暫くどこへか姿をかくし、出て来たところを見ると、羽目板のはずれたのを、片ぺら泥だらけのまんまひきずって来た。それを、ブランコの切れた繩の下まで引っぱって行き、繩へくくりつけた、つまりブランコらしいものにしようとしているのだが、繩は太いし、板は薄くて幅がひろいし、霜やけの出来た小さい二郎の手にはしまつがつかない。