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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
た。保の生活がそういう学生の動きとはちがっている。伸子はそれにたいして批評をもたなかった。けれども貼紙の文字は伸子の本性に抵抗を感じさせ気にかかるのであった。
「保さん、いる? あけてもいい?」
伸子は、唐紙のひきてに手をかけてきいた。
「ああ、姉さん? いらっしゃい」
保は、勉強机に向ってかけ、ひろげた帳面にフランス語の何かを書きうつしていた。北側の腰高窓があけはなされていて、樹木の茂った隣の奥ふかい庭が見おろせた。梢をひいらせている銀杏の若葉が、楓の芽立ちの柔らかさとまじりあって美しく眺められる。
「いつ来たの、僕ちっとも知らなかった」
保のまぶたはぽってりとしていて、もみ上げや鼻の下に初々しい和毛のかげがある。
「さっき来たばっかり」
伸子は、ちょっと黙っていて、
「お客なの知っているの?」
ときいた。
「ああ」
「おりて行けばいいのに……」
「――僕はこの間家へ行って会ったばかりだから別に話もない」
保は、おだやかにいって絣の袷を着た大きい膝を椅子の上でゆすりながら隣の庭を眺めおろしていたが、
「姉さん、きょう泊って行くんでしょう」
ときいた。
「そう思って来たんだけれど……」