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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

空虚感ははうずめられなければならないというように、ぼんやりした哀感が湧いて来るのを伸子は感じた。高校生の保が瞑想と自分の部屋の入口に貼紙するこころもち、そのこころもちの動機は、何と微妙に、しかもどっさり、ここの家の生活の明暮れにあることだろう。伸子は、ベルを鳴らした。この間電話をかけたとき、はア、はアとばかりいっていた新しい女中が、ドアから首を出した。

「ここをかたづけてね、――それからお湯わいているかしら、お茶がほしいんだけれど」

「はア」

「保さんに、お鮨とってあるの?」

「――さあ」

「ここへ出したっきり?」

「はア」

「ともかくかたづけて――おときさんはいるんでしょう?」

「はア」

ときは、台所専門で、もう二年ばかり佐々の家にいた。

「じゃ、そういっておいて頂戴、今晩は、こちらで御飯たべてかえりますからって……」

「はア」

四時すぎて、保が帰って来た。

「ああ姉さんもいたの!」

保は、和毛のかげの濃い上唇をうれしそうにゆるめて、こまかく詰った白い歯なみを見せながら笑った。そして、からだを半分廊下にのこしていたドアをひろくあけて、客間へ入って来た。

「この前来たとき、保さん珍しくおそかったのね、雑誌って、どうした?」