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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「河野さん、あなたは、ああいうものおわかりになる?」

ウメ子は目立たない勉強家で、いつとなく専攻の英文学のほかに、チェホフの作品などを原語でよむようになっていた。小説のことでは伸子も間接に影響をうけている須田猶吉に親炙して、婦人の作家に珍しく装ったところのない作風を認められていた。

「わたし、いつもなまけてばかりいてわるいんですけれど、あんまりああいうものは読まないんです」

ウメ子は、ちらりと奥にある小さい金歯をのぞかせながら笑って、美しい上まぶたをつり上げるようにした。

伸子には、篠原蔵人の論文にあるように、リアリズムという文学の上の傾向にも階級の区別があって、ブルジョア・リアリズム、プロレタリア・リアリズムとわけられなければならないということが、よくのみこめなかった。「アンナ・カレーニナ」のなかで、アンナがモスクワへ来てはじめて夜会に出かけた晩の美しさ。そしてまた、ウロンスキーと恋愛におちいったのち、良人カレーニンの書斎で、女としての解放を求めて冷血なカレーニンに迫ってゆくあの生命に溢れ、必死な真実に燃えたった情景。ああいう風に、まざまざと人間とその生活とがたぎっている小説がかけたら、と思いこんでいるのぞみのなかで伸子には、ブルジョア・リアリズム、プロレタリア・リアリズムという区分の意味がわからないの