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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
下附までには凡そ一ヵ月以上かかるという話であった。それまでに旅費の見当がつくかもしれないというわけだった。
二人がゆくとすれば、この郊外の家は当然たたまなければならない。本や荷物をどこへ預けよう。素子は、日本橋の従弟の店の倉庫と、老松町の、伸子がもと二階がりをしていたお裁縫やへあずかって貰うことにした。伸子の分は動坂へやる。そんな相談が始められるようになったある日、伸子が、長い小説を連載していた雑誌社の社長の木下徹が、伸子たちの家を訪ねて来た。
鼠っぽい夏服をつけた背の低い木下徹は、自動車から降りて来たままの帽子なしの姿で、
「やあ、おられますか」
南国の訛を声にひびかせながら、玄関に立った。
「ちょっと用事があって玉川まで来たもんですからね……なかなか閑静なところじゃないですか」
珍しそうに、女住居に塵のしずまっている家の中や、荒れた庭を眺めた。伸子は、市中のビルディングの一室で、どっちかというと事務的な会いかたばかりして来ている木下を、自分たちのうちの椅子にかけさせつけなかった。とりとめない話の末、木下は、
「やあ、どうもこれでなかなか問題が多くてね」