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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
「両方出来なくちゃ意味がないわけよね」
「お前、吉見ってひとの責任まで負えるのかい? あとで困ることになりゃしないのかい?」
「困るって?――」
「吉見なんていったって東京じゅうに知っているものなんざ一人もありゃしませんよ」
吉見素子が、伸子の旅費も出来たら自分で工夫しようとしていたと知ったら、多計代はそれにたいしてなんというつもりだろう。伸子は、腹のたつ気持を抑えたぎごちない低い声で、
「お母様の世間だけが、世間のすべてでもなさそうよ」
と云った。
「お金のことでいうんなら、吉見さんのうちの方がよっぽどお金持かもしれないわ、吉見さんは自分のお金で行けるんだから」
「なにもお金のことばかりいってやしませんよ」
多計代は、自分の息子や娘の友人にたいしていつも警戒的で、下目に見る習慣があった。さもなければ、保の友人の東大路の場合のように、何かの偶然で有名なその家族の名前に盲信した。だから、和一郎の友人にしろ、保の友達にしろ、その年頃の若い者らしく溌剌と自由で、まともなつき合は佐々の家庭のなかまでひろがらず、例外のように出入りしつづける若者は、多計代のそういう態度に反撥しないような人柄だった。