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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「本が出たら、すぐお送りします。わたしのロシア語なんてあやしいんですけれど、宛名ぐらいかけるでしょうから、思いがけない役に立つわけです」

諧謔的にそういって、ウメ子は小さい金歯をみせながら、ちょっと舌を出すように笑った。

引越しのトラックが来る日がきまったとき、伸子は重い気もちで動坂へ行った。駒沢の家かたづけの第一日は動坂へ荷物を送り、第二日は日本橋の素子の従弟の倉庫へ。そう順序だてられた。多計代は、きっといつもの調子で、そのビール箱の中のいくつが、素子の本かときいたりするのだろう。そう思って伸子は気のはずみの失われた顔でその話をきりだした。

「そのビール箱っていうのはいくつぐらいあるの?」

何となく、多計代のうけ答えは軽快であった。

「全部で、十ばかりなの」

土蔵の空きまを一寸考えてみる風だったが、

「そのくらいなら大丈夫だよ、もっといで」

多計代は淡白に承知した。

「災難はいつおこるかわからないから、第一土蔵が落ちるような火事でもあったらそのときのことだけれど――そしたらまあ、お互にあきらめて貰うことさね」

あらためて多計代は、

「伸ちゃん、いつからこっちへ来るのかい」