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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「伸子さん、ちょっと」

とよびとめた。立ちどまって、ふりかえった伸子を手まねきして、自分のいる煖炉前のところへ来させた。

「あなた外国へゆくのは大変いいです。――非常にいいです」

実感のこもった真面目な低い声で、首をふりながら砂場はそういった。

「大きいところで大きく育つこと。これが大切だからね。――これお祝です」

砂場嘉訓は、いつの間に出したのか百円の札をむき出しのまま伸子にさしつけた。

「ありがとう、お祝は頂くけれど――お金はいらないわ」

「そうじゃない。伸子さん、金というものはいるものです」

やっぱり低いしらふの声で砂場は手をひっこめている伸子を説得する調子でいった。

「これでも何かの役に立つ。もっていくものです、もっていくものです」

その上拒絶しかねてその金をうけとったまま立っている伸子の顔を腰かけたままの高さからのぞきこむようにして、砂場嘉訓は一段声をひそめて、ささやいた。

「えらくなるには、ばかのまねしなければだめです。ひとがばかだと思うようにすることが大切です、金のことなんかわからないふりしてね」

なにがいい出されるのかとブランデーやけした砂場の顔に注いでいた視線をおとして伸子はぞっとしたような気もちでその室から出た。