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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
「僕の命がある間は、このこころもち、変えようないんだ」
伸子とすれば、それをそのまま多計代に告げておくしかなかった。問題を根本からこねかえすためには、もう時間のゆとりがなかった。伸子は、あと四五日で東京を立たなければならず、大型のハンドバッグの中には、トゥリスト・ビューローで買った東京モスクワ間の切符が入っているのだった。つづけて伸子の心に、保のいったことが思い出された。やっぱりおととい、伸子は手まわりの荷物をつめた大小のスーツ・ケースと一緒に、本をつめた行李を二つタクシーで動坂へ運んだ。その行李にはもしかいることがあるかと思って、ビール箱につめてしまわなかった文学書が入っていた。伸子が、その行李を、中玄関横の板じきにおいているところへ、保が出て来た。伸子は、
「あら、丁度よかった」
いつもの単純な調子でいくらか一人のみこみに、
「この行李、保さんあずかってよ」
といった。
「もしかしたらあとから送ってほしい本を入れてあるの。たのむわね」
どうしたのか保は、そのときすぐ返事をしなかった。伸子はかさねて、
「ね、おねがい」
といった。すると保は、なんとなくその行李の繩に手をかけ、重みでもはかるように背を曲げて下を向いたまま、