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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「これゃいいや、番犬がわりにうちでも飼おうか」

素子が笑った。

やがて三人のゆく道の景色は変って、いかにも駒沢の奥らしく続いた竹藪と、農家の古い茅屋根の間に入った。大きい竹藪の茂みの間を縫って、湿っぽく薄暗く足音の消える細道の角に、赤い布を結びつけられたきたない顔の小さい石地蔵が立っていた。うす暗い藪かげにそれをみると、伸子は、

「――気味がわるい……」

小声でそういって素子の手につかまった。

いくらか足早にそこをぬけると、風景は再び前方に明るく展開して、小高く連なる耕地の裾をとおる一本道は、水勢のはやい流れに沿うた。柳が生えている川岸に、ここでも鵞鳥が黄色い嘴をふりながら餌をあさっている。丘になった耕地の彼方に、いかにも風車でもありそうな木造の洋風の高い小舎が眺められた。

「あれなにかしら……」

「なんだろうな」

竹村は伸子にそうきかれてはじめて眺め直すように、そっちを見た。

「あなたのところ、あの近所?」

「すこし方角がちがう、もうすこしこっちになる」

荷車が一台耕地の間の草道に置いてある、その方を指さした。

「もうそろそろついてもいい頃だな」

「栗の樹があるだろう? あの角を入ればすぐさ」