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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
「それがいいわ」
空虚にたえがたいという眼色になっていった。
「絵でも見た方がいい」
すると、素子が、
「なんだい、えらそうに!」
つよくマッチをすって、巻たばこに火をつけた。
「体裁屋!」
竹村が帰って、卓の上をあと片づけしている伸子に視線をすえて、素子は、
「君は体裁屋だよ!」
嘲りいどむようにいった。
「竹村なんかどう思ったっていいじゃないか」
「それはかまわないわ」
「じゃ、なぜあんなに、とりなそう、とりなそうとするんだ。私が不愉快がっているなら、勝手に不愉快がらしておいたらいいじゃないか」
「竹村さんが私たちの不愉快になるようなことをした? なにか」
「君に感じなくたって、わたしが不愉快を感じているんなら、それをたててくれていいじゃあないか。――自分ばかりいい子になろうとなんかしなくたっていいんだ、水臭い」
とよが台所で大根を刻んでいる、こまかくせわしいその庖丁の音をききながら、伸子は卓の上に頬杖をつき、こまかい雨の中にくれかかる夕暮の広い庭を見ていた。雨にぬれる雑草の中の萩の枝や遠くの生垣が、伸子の眼に浮ぶ薄い涙をとおしてよけい水っぽく見えている。
これまでも、素子は二三度、なんだ、体裁屋! と罵って伸子を非難した。