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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

自然なだけ、ひどいめに会うのは私にきまってるんだ」

素子は伸子の方を見ないまま、

「いつだったか、いったろう? 私は、男が女を愛すように女を愛すたちだって。――あのとき、ぶこちゃんは、わかったようにあいづちうってたけれど、実際には、いまだってわかってなんかいやしないのさ。わからないのが、佐々伸子さ」

涙の粒が、素子の小麦色の頬をあとからあとからころがり落ちた。

「私に、ぶこちゃんの自然さがわかるのが、百年目だ」

伸子も泣いた。素子の苦しさがせつなく、自分が素子をそんなにせつない思いにさせた、それが苦しくて。――素子の手を自分の頬にもち添えて泣きながら、伸子は、それでもやっぱり自分の心が素子と同じ皿の上の同じ焔とはなっていないのを感じた。素子に誠実であろうとしている自分の心の偽わりなさは伸子にわかった。素子にもそれは通じている。それもわかった。しかし素子は、女はだからいやだ、とそんなに苦しむ。そのいやさを、伸子は自分の感情として自分に実感することが出来なかった。どっさりの黒い髪を頸の上につかね、小麦肌色の顔を苦しさに蒼ずまして伸子に向っておこる。その素子にわるい、と思う気もちばかりつよく感じられるのであった。