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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

伸子は、

「わたしも駄目なくちよ」

ぶっきら棒に答えた。伸子はそのとき、ああ、竹村も編物について佃と同じことをいうと瞳をこらすようにして思った。佃との生活の不調和がつのって、何事も手につかないような気持になって来た時分、佃の父親が上京した。伸子は二人の間のもつれを、白髯のたれた七十近い老人に知らせるのを気の毒に思った。一つ燈の下に、老父と佃と三人で、話という話もなく、毎晩をすごす気づまりから、伸子は編物を思いついた。伸子は、少女の頃、桃色の毛糸で円いきんちゃくを編んだきり、編物をしたことがなくて、二本の竹針ではうら編みしか出来なかった。それにかまわず、いろいろな色の毛糸を買って来て、伸子は老父の滞在中、毎晩編物をした。編目がじきのびて、みっともなくなってしまうにちがいない裏あみばかりで、義理の姪に当る小さい娘のために、九つほどの息子のために、赤と茶の頸巻きをあみ、霜ふりの太い糸で老父の腹まきを編んだ。竹のすべっこい針の先と先とが電燈に光りながら、弾力のあるかたさでぶつかりながら糸目をすくいだして来る軽い微かな響、こまかく早く単調な手さきの運動。伸子は、編むひとめひとめに、まぎらしようのない心の憂さと屈託とを編みこんでいるのであった。