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ふたつのまつかわ

二つの松川

細井 吉造

「旅」1936(昭和11)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,511 字 · 10 页

青空文庫

人間の狡智の前には無心なツグミは毎年くりかえされる犠牲にすぎない。そしてかすみ網を張るために設けられた鳥屋は、鞍部の一角、奥南岳に寄った小高い場所に、森閑の象徴を凝らして静まりかえっていた。われわれの求めていた安息所もこれだった。

木と葉っぱと草で作られた、たとえば人類がこの世に初めて作った家というものの原型はこれだったかもしれない。炊事道具と、ふとんと、ランプと、石油かんと、食糧を除いた生活必需品は完全に備わっている。入り口に手ごろの石で囲った炉を設けて、山のように積まれた薪は、猟人の営みがまもなく開始されることを語っているのだ。念丈から熊笹の切り明け道を下って来たわれわれは、この狩小屋を見つけ出すと、どよめきながら走り寄った。そして赤々と火をたいたのである。もしその夜が晴れ上がったならば、満月に近い光芒は、あたりを一層神話めいた環境にしたかもしれないが、山の端をもれる輝きはなかった。そればかりかわびしい一時雨が、狩小屋の戸口に咲くエゾニウのか細い茎をゆるがして過ぎた。しかし昨夜の天幕で濡れたものが燃え上がる炎でどしどしかわいて行くのは、心のむすぼれを解きほごしてくれる魔術のようだ。