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ふたりいるとき

二人いるとき

宮本 百合子

「新女苑」1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页

青空文庫

「すぐなさいます?」

「もう少しあったまってからにしようじゃないの。――でも、……おいそぎになるの?」

「いいえ、そうでもないんですけれど……」

「じゃあ、ゆっくりなさいよ。きょうはうちでも珍しくすこし風邪気味でお休みだし――……」

一二度麻雀に誘われて遊んだりしたことのある良人の幸治のことを云い、尚子は、

「でも、私、ほんとにあなたはお偉いと思うわ」

丸い柔かいウエーヴのよく似合う顔立ちにいつわりのない色を浮かべて云った。

「よくお仕事はお仕事と、いつもきっちり事務的にやっていらっしゃると思うわ。私たちなんかお友達がよったらもうおしまいよ、つい喋っちまって」

「あら。私たちだって、随分だらしないときもありますわ」

「そうかしら。拝見したことないわ」

困ったような、はにかんだような笑いかたをして多喜子はちょっと居住まいをなおした。関係から云っても、同級であった桃子の兄嫁のところへ、ただ洋裁の仕事先として多喜子は来ているのであった。

仮縫いの方を着て尚子が立っている背中の皺にピンをしているところへ、襖の外から、

「いい?」

声をかけて、桃子が入って来た。

「ちは」

学生時代のまんまの符牒のような挨拶を、ピンを唇で押えているので口の利けない多喜子に向ってかけ、桃子はすこしはなれたところからぐるりと尚子の立ち姿を見まわした。