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ふたりのもうじん
二人の盲人
平林 初之輔
「祖国 第三巻第一二号」1930(昭和5)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,366 字 · 13 页
細君が代わって答えた。
「いつも独りでやるのよ。あたしよりよっぽど器用ですわ」
「この注射器は、駄目だ、あっちのと取り替えてきてくれ」
玄石は、毀れた注射器の針を、脱脂綿で拭きながら、千鶴子に渡した。彼女は、それをうけとって立ち上がった。
彼女の足音が、奥の間へ消えた時、玄石の顔には、何とも言いようのない表情が浮かんだ。呪いと、憎みと、喜びと、満足とを一緒にしたような、悪魔の笑いのような、形相が彼の面に現れた。しかし、眼の見えない藤木には、それはわからなかった。
玄石の左手には注射用の××××の小瓶が握られた。彼の左手は、猿のように敏捷に、膝の前の辺を探った。彼は素速く、モルヒネの瓶を右手に持ちかえた。
気味の悪い液体が、一滴、一滴、つぎつぎに三つの茶碗の中へ注がれていった。
それがすむと、彼は悪魔の笑いを笑いながら、もとの姿勢にかえった。その瞬間、千鶴子が、別の注射器を持ってかえってきた。
「これでいいでしょうか?」
玄石は無言でそれをうけとった。極度の興奮と、咽喉の苦痛とのために、声が出なかったのだ。
千鶴子は、玄石が自分で自分の二の腕に、注射器をさすのを危なかしそうに見ていたが、やがて、思い出して言った。