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ふたりのもうじん

二人の盲人

平林 初之輔

「祖国 第三巻第一二号」1930(昭和5)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,366 字 · 13 页

青空文庫

二

放射線道路の縁端は玄療院の玄関から、茶の間を横ぎって斜めに南の方へ突きぬけることになっていた。

既にこの頃では、人夫の声や、鶴嘴の音や、トロッコの響きなどが崖の下で聞こえる。土の崩壊する音を聞くたんびに、彼は彼の世界が、いや彼の生命そのものが崩壊していくように感じた。彼は、稼業の針按療治にも手がつかないで、榊の生垣のそばにつっ立って、世界の崩壊する音を聞きながら、吐息をついていることが、毎日のようだった。

二

玄石には、美しい妻があった。

だが、美しいというのは、世間の人の評判だけで、子供の時分に視覚を失った彼には、女の美醜についての観念は全くなかった。美しいというのは、どういうのだろう? 彼は、鋭敏な指先で、彼女の頭を、眼を、鼻を、口を、頤を、肩を、乳房を、全裸体を撫でまわしてみて、彼女の美を意識しようとつとめたことが、幾度あったか知れぬ。だが、どんなに鋭敏な触覚でも、視覚の代わりをすることはできなかった。彼にとっては、彼女の美は、不可知の属性にすぎなかった。それは彼に何の悦楽も与えないで、ただ、永久に満たされないもどかしさを与えるだけだった。美を所有しながら、美を認識することができないということは、もともとよりもなお悪かった。