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ふたりのもうじん

二人の盲人

平林 初之輔

「祖国 第三巻第一二号」1930(昭和5)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,366 字 · 13 页

青空文庫

何を笑っているんだろう? 何をぐずぐずしているんだろう?

彼には、三十秒くらいの間が、一時間ものように思われた。彼は全身の神経を集中して、二人の動作を偵察した。ほんのちょっとした息づかいの変化さえも聞き洩らさなかった。

藤木の様子は、もちろんいつもと変わっていなかった。彼は快活にいろいろな話をした。千鶴子も朗らかに、その相手をして、ときどき笑っていた。しかし、その無心の笑い声は、玄石の肺腑を熊手で掻きむしるようだった。

「苦しそうだね、玄石君、注射をしなくても大丈夫かい?」

「つい一時間ばかり前からなんですよ。でも今夜は、ほんとうにお苦しそうね」

――何を言ってやがるんだ。俺の苦しむのを喜んでいるくせに、俺が早く死ねばいいと思っているくせに、――玄石は心の中でこう考えながら、見えない眼で二人の方を睨んだ。

「貴方、注射をしなくてもいいこと?」

玄石は答えなかった。重苦しい不気味な沈黙がつづいた。突然、なまめかしい脂粉の香いが玄石の鼻をうった。

――何のために、白粉なぞを塗っているのだろう? 俺が眼の見えないことは、わかっているくせに、化粧をして、いったい誰に見せるつもりなのだ。