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にはいじん

二癈人

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1924(大正13)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,388 字 · 23 页

青空文庫

ハハハ……」

井原氏は力ない笑声で長い身の上話を結んだ。そして、

「下らないお話で、さぞ御退屈でしたろう。さあ、熱いのを一つ入れましょう」

と云いながら茶道具を引寄せるのだった。

「そうですか。一寸拝見した所は結構な御身分の様でも、伺って見ればあなたもやっぱり不幸な方なんですね」斎藤氏は意味ありげな溜息を吐きながら「ですが、その夢遊病の方は、すっかりお直りなすったのですか」

「妙なことには、人殺し騒ぎの後、忘れた様に一度も起らないのです。恐らく、その時余りひどい刺戟を受けた為だろうと医者は云っています」

「そのあなたのお友達だった方……木村さんとかおっしゃいましたね。……その方が最初あなたの発作を見たのですね。それから時計の事件と、それから、墓地の幽霊の事件と、……その外の場合はどんな風だったのでしょうか。御記憶だったら御話下さいませんか」

斎藤氏は、突然少しどもりながら、こんなことを云い出した。彼の一つしかない眼が異様に光っていた。

「そうですね。皆似たり寄ったりの出来事で、殺人事件をのけては、まあ墓地を彷徨った時のが一番変っていたでしょう。あとは大抵同宿者の部屋へ侵入したという様なことでした」