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にせんどうか

二銭銅貨

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1923(大正12)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,143 字 · 34 页

青空文庫

そして、実は松村の挙動をソッと盗み見ていたのである。

按摩が帰って了うと、松村も彼の机の前に坐って、何か紙切れに書いたものを読んでいる様であったが、軈て彼は懐中から、もう一枚の紙切れを取出して机の上に置いた。それは、極く薄く、二寸四方程の、小さいもので、細い文字が一面に認めてあった。彼は、この二枚の紙片れを、熱心に比較研究している様であった。そして、鉛筆を以て、新聞紙の余白に、何か書いては消し、書いては消していた。

そんなことをしている間に、電燈が点いたり、表通りを豆腐屋のラッパが通過ぎたり、縁日にでも行くらしい人通りが、暫く続いたり、それが途絶えると、支那蕎麦屋の哀れげなチャルメラの音が聞えたりして、いつの間にか夜が更けたのである。それでも松村は、食事さえ忘れて、この妙な仕事に没頭していた。私は黙って、自分の床を敷いて、ゴロリ横になると、退屈にも、一度読んだ講談を、更らに読み返しでもする外はなかったのである。

「君、東京地図はなかったかしら」

突然、松村がこういって、私の方を振向いた。

「サア、そんなものはないだろう。下のお上さんにでも聞いて見たらどうだ」