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ごえもんとしんざ

五右衛門と新左

国枝 史郎

「大衆文芸 第一巻第一号」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,405 字 · 21 页

青空文庫

一

「大分世の中が静かになったな」

こう秀吉が徳善院へ云った。

「殿下のご威光でございます」

徳善院、ゴマを磨り出した。

「ところが俺は退屈でな」

「こまったものでございます」

「趣向は無いか、変った趣向は?」

「美人でもお集めになられては?」

「少々飽きたよ、実の所」

「それに淀殿がおわすので」顔色を見い見いニタリとした。

「うん淀か、可愛い奴さ」釣り込まれて秀吉もニタリとした。

後庭で鶴の声がした。

色づいた楓の病葉が、泉水の中へ散ったらしい。

素晴らしい上天気の秋日和であった。

「趣向は無いかな、変った趣向は?」

秀吉は駄々をこね出した。

「さあ」

と云ったが徳善院、たいして可い智慧も出ないらしい。

トホンとして坐わり込んでいる。

「ほい」

と秀吉は手を拍った。「あるぞあるぞ珍趣向が!」

「ぜひお聞かせを。なんでございますな?」

「茶ノ湯をやろう、大茶ノ湯を」

「なんだつまらない、そんな事か」心の中では毒吐いたが、どうして表面は大恭悦で、ポンと額まで叩いたものである。

「いかさま近来のご趣向で」

「場所は北野、百座の茶ノ湯」

「さすがは殿下、大がかりのことで」

合槌は打ったが徳善院、腹の中では舌を出した。