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ごがつのゆいぶつかん
五月の唯物観
寺田 寅彦
「大阪朝日新聞」1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,225 字 · 9 页
とか、また「若葉の梢涼しげに茂りゆく程こそ、世のあはれも、人の恋しさもまされと、人のおほせられしこそ、げにさるものなれ」などといっているところを見ると、この法師もその当時は H0 - A = K の仲間ではなかったかと想像されて可笑しい。それに引きかえて『枕草子』に現われて来る清少納言の方はひどく健康がよくてAが小さくH0がいつもKに近いという型の婦人であったように見えるのである。
『徒然草』の「あやめふく頃」で思い出すのはベルリンに住んではじめての聖霊降臨祭の日に近所の家々の入口の軒に白樺の折枝を挿すのを見て、不思議なことだと思って二、三の人に聞いてみたが、どうした由来によるものか分らなかった。ただ何となく軒端に菖蒲を葺いた郷国の古俗を想い浮べて、何かしら東西両洋をつなぐ縁の糸のようなものを想像したのであったが、後にまたウィーンの歳の暮に寺の広場で門松によく似た樅の枝を売る歳の市の光景を見て、同じような空想を逞しゅうしたこともあった。こんな習俗ももとは何かしら人間の本能的生活に密接な関係のある年中行事から起ったものであろうと思うが、形式だけが生残って内容の原始的人間生活の匂いは永久に消えてしまい忘れられてしまったのであろう。