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きょうのそのころ

京のその頃

上村 松園

「塔影」1935(昭和10)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,450 字 · 7 页

青空文庫

そうしたお客さんが又、大抵みな若い女の人達なので、小町紅というと何とも言えない懐かしい思い出がつきまとう気がする。

この頃の口紅というと、西洋から来たのだろうが棒になってるのだが、昔のは茶碗の内らに玉虫色に刷いてあるのを、小さな紅筆で溶いてつけたものだった。つけ方だって、この頃では上唇も下唇も一様に真ッ赤いけにつけてしまって、女だてらに生血でも啜ったようになってるのを喜んでる風があるが、あれなども西洋かぶれすぎると思う。

紅は矢ッ張り、上唇には薄紅く下唇を濃く玉虫色にしたところに何とも言えない床しい風情がある。そんな紅のつけ方など時たま舞妓などに見るくらいになってしまった。口許の美しさなど、この頃では京の女の人から消えてしまってると言いたい。

あの辺を奈良物町と言った。

丁度四条柳馬場の角に、金定という絹糸屋があって、そこにおらいさんというお嫁さんがいた。眉を落していたが、いつ見てもその剃り跡が青々していて、色の白い髪の濃い、襟足の長い、何とも言えない美しい人だった。

お菓子屋のお岸さんも美しい人だった。

面屋のやあさんも評判娘だった。面屋というのは人形屋のことで、お築という名だったが、近所ではやあさん、やあさんと言ってた。