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きょうかのこむすめどうじょうじ

京鹿子娘道成寺

酒井 嘉七

「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页

青空文庫

が、私は、この時に、ふと師匠に癪の持病が、おありになることを思い出し、これは、また、きっと、癪を起されたのであろう、それも悪い時に、と……、こんなことを考えたのでございます。しかし、破れるような、大向の懸声のうちに現われて参りました、金の烏帽子の白拍子に、思わず、私の目は引きつけられ、そのまま、お師匠さまのことは、忘れるともなく、お忘れ申していたのでございました。

※(歌記号、1-3-28)鐘にうらみは数々ござる……。

この唄とともに、中啓の舞が初まるのでございますが、さすがに、名優の至芸と申すのでございましょうか、鐘にうらみの妄執が、浸みでているようでございます。お客さまがたはただ、もう、うっとりと、舞台の上を、物のけにつかれた様に見まもっていらっしゃるばかしでございます。立三味線は、さきほども申しましたように、私のお師匠ではございませんが、さすがに、一のお弟子さんの新三郎さま、すっかり師匠そのままの、立派な撥さばき、たて唄の三郎治さまもすっかり、ご満足されて、お唄いになっていらっしゃる様子でございました。

唄の文句が、

言わず語らぬ我が心、乱れし髪の乱るるも、つれないはただ移り気な、どうでも、男は悪性者……。