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きょうかのこむすめどうじょうじ

京鹿子娘道成寺

酒井 嘉七

「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页

青空文庫

、と考えられるのでございます。――この隈と申しますのは、いうまでもなく、扮粧をいたします際に、面を彩る種々の線に過ぎないのでございますが、色彩の点から申しても、紅隈、藍隈、墨隈というように色々ございますし、形から申しましても、筋隈、剥身、火焔隈、一本隈、というように、化身、磐若、愛染というような役柄に、ぴったりと合うのが、それぞれあるのでございます。しかし、大要のことは定まっておりますものの、役者自身に、各々と、独特な隈どりの方法や、技術がございまして、そうしたものは、刀鍛冶の湯加減、火加減と同じように、他の者には、絶対に秘密とされていたのでございます。そうした訳で、半四郎も、このひと独特ともいわれておりました、道成寺の変化の隈どりを、誰にも見せたくはない為に、その扮装の場合にも奈落に降りず、舞台に伏ったままの鐘の中で総ての扮装を、自分ただ一人でなさっていた、と考えられるのでございます。

こうした訳で、あの造りものの鐘の内部には、扮装と隈どりに必要な化粧品や道具が、棚のようなところに、そなえつけてあり、鐘の頂上には空気ぬきもあけてはございましたものの、もちろん、人の出入りするほどの大きさもございませんので、そこから人が入ったとも考えられません。