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きょうかのこむすめどうじょうじ
京鹿子娘道成寺
酒井 嘉七
「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页
この兇器こそ、ほかでもございませぬ、私の師匠、杵屋新次さまの象牙の撥――それも開幕前には、師匠が楽屋で、手にしていらっしたものなのでございます。これは、お弟子さまがたも申され、師匠ご自身も認めていらっしゃることでございますが、これが、鐘をつり上げました時、舞台にうつ伏った、半四郎の傍で発見されたのでございました。――こうした理由で、私の長唄のお師匠が、この殺人事件の第一の被疑者になられたのでございますが、客観的に考えて見ますれば、それは、あまりにも、当然なことでございましょう。
師匠は、その筋の方に、次のように語っていられるのでございます。
|○|
私が娘道成寺の際に折あしく、持病の癪を起し、出演いたしませんでしたこと、私の象牙の撥が、あの造りものの鐘の中にあったことを考えますれば、私が第一に嫌疑をうけるのは当然のことでございましょう。――しかし、私自身と、あの殺人事件との間に、どうした関係がございましょう。
私が、あの撥を、三味線箱から取り出しましたのは、娘道成寺の開幕に二十分あまり前でございました。私は、自分の癖――または、たしなみといたしまして、三味線や撥は決して、弟子の手にまかしはいたしません。