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きょうかのこむすめどうじょうじ

京鹿子娘道成寺

酒井 嘉七

「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页

青空文庫

私はこうした、桜ずくめの、絢爛たる舞台を前に、ただもう、呆然といたしていたのでございます。舞台の上には張子の鐘が、思いなしか、不気味に覗いております。舞台の上手と下手は、大坊主、小坊主連中が、お行儀よく並んでいらっしゃいました。

|○|

場内は、水をうったように静まりかえり、時々、静寂の中を、ご見物衆の、せきばらいの一つ二つが、さながら、森の中でいたしますように、凄いまでの反響を、私たちの耳にこだまするのでございます。やがて、立三味線のかけ声がかかりました。観衆の、じっとこらしている息の中を、長唄が、

※(歌記号、1-3-28)鐘に恨は数々ござる、初夜の鐘を撞く時は、諸行無常と響くなり……。

と、重々しく、初まったのでございました。と、私といたしましたことが、この時に、初めて、気づいたので御座いますが、立三味線は、私のお師匠ではございません――杵屋新次さまでは御座いません。一のお弟子さまの杵屋新三郎さまなのでございます。私は、あまりの意外さに、あっと驚き、

「師匠が、どうして、三味線をお弾きにならないのでございましょう」と、独白したほどでございました。