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しぐれがさ

人情武士道

山本 周五郎

山本周五郎『人情武士道』。同一底本的分册已合并为一书。收入:しぐれ傘、竜と虎。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,700 字 · 51 页

青空文庫

四

「待て待て、まあ彼方へあがろう」そう云って大声に、「幸枝、幸枝は居らぬか」と喚きたてた、「此処へ参って片付けて呉れ、儂は用事が出来たから、よく気をつけて、また逃がさぬようにするんだぞ」

四

「さて聞こうか」居間に坐ると直ぐにそう促した。

「申上げます、若輩者がかようなことを申上げまして、或はお怒りを受けるかも知れませんが」

「なになに、その遠慮は無用じゃ」

市郎兵衛はたいそう上機嫌である。

「実は、幸枝どのを」と至は苦いものを嚥むように云った、「家の妻に頂戴したいという者がいるのです」

「うん」老人の眼が細くなった。

「自分からこうと申上げにくいから、拙者に是非とも取次いで呉れと頼まれ、よんどころなくお願いにあがったのですが、承知してやって頂けませんでしょうか」

「すると、嫁に欲しいという当人は誰だ」

「八木次郎太でございます」

市郎兵衛の顔がみるみるうちに赤くなった。ほんの一瞬まえまで上機嫌だったのが、まるで殴られでもしたように、額まで赤く凄じい怒気を発して来たと思うと、

「……こ、この、出過ぎ者が」と声いっぱいに呶鳴りたてた、「其方はなんだ、どれだけの人間だ、いやどれほどの人間だというのだ、まだ前髪の跡も消えぬ若輩の身で、他人の縁談の仲立ちをするとは笑止千万、出過ぎるぞ西郡」