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じんせいせいかいいん
人生正会員
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,238 字 · 23 页
「僕にかゝって来たんです」
「君にしてもさ。誰からだい?」
「大野の芳子さんからです。押売です。又音楽会の切符を買ってくれと言うんです」
「買ってやれば宜いじゃないか?」
「断りました」
「何故?」
「面倒です」
「そんな不親切なことはないよ。家へ教えに来ているんだ。俺に買って貰いたいと言ったんじゃないかい?」
「社長さんにも五枚ばかりと言いましたが、断りました。喪中ですから」
「喪中だって構わない。行く行かないは別として、十枚買ってやりなさい」
「はあ」
「直ぐ電話をかけて」
「何処からだったか分りません」
「学校からに定っている」
大野の芳子さんというのは僕の従姉だ。ピアノの先生として二つの女学校に勤めている上に、一週一回社長邸へ来て令嬢に教える。僕が推薦したのだ。上のお嬢さんの時からだから、以来五年近くになる。奥さんのお気に入りだった。僕は芳子さんの学校二つに電話をかけて、二つ目で捉まえることが出来た。切符を十枚買うと言ったら、大喜びをした。
「小野寺君、今の話の続きを行こう」
と社長が申入れた。
「もう何うでも宜いです」
僕は単純だ。従姉に親切を尽して貰った丈けで、社長の誠意を感じたのだった。