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にんげんかい

人間灰

海野 十三

「新青年」博文館、1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,345 字 · 33 页

青空文庫

(二)午後七時半ごろ、かなり湖水近くまで来たと思ったときに、一つの墓地に迷いこんだ。そこには、真新しい寒冷紗づくりの竜幡が二流ハタハタと揺めいている新仏の墓が懐中電灯の灯りに照し出された。墓標には女の名前が書いてあったが覚えていない。しかし墓は土をかけたばかりで、土饅頭の形はまだ出来ていなかったこと。

(三)墓の側にはトラックの跡がついていたので、それについて行けば本道に出るだろうと思って辿ってゆくと、やがて一軒の家の前に出た。標札には「湖口百番地、青谷二郎」と認めてあった。その家の前に湖水の水が騒いでいたこと。

(四)湖水を渡るつもりで舟を探したところ小さいのが一艘あったので、これに乗って西へ西へと漕ぎ出した。西風はだんだん強くなって、船は中々進まない。半分ぐらい来たところで、真正面に空気工場の灯が見えた。元気を盛りかえして漕いでゆくうちに、風が急に変ったものと見え舟が北岸に吹き寄せられた。そのとき、ちょっと気がついたのは、たいへん冷い雨が顔に振りかかったことだが、大汗かいているときなので気持ちがよかった。この雨はまもなく熄んだ。それからは岸とすれすれに湖尻まで漕ぎつけたこと。