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にんげんはんえい

人間繁栄

豊島 与志雄

「改造」1924(大正13)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,038 字 · 38 页

青空文庫

俺だって考えを変えないこともないからね。」

「いいえ、そんなことではありません。商売人の不見転なんかに手出しをなさるよりは、はっきりこれこれときまってる方が、まだよいと思っていますわ。」

「それでは、お前の考えてることは一体何だい。俺にはさっぱり見当がつかないんだが……。」

そして彼は出来るだけ言葉の調子を和げて、彼女の意中を探りにかかったが、彼女はぴたりと心を鎖して一言も洩さなかった。しまいには彼も諦めて、先に床に就いた。

その夜中に、彼はふと変な心地で眼を覚した。隣りの室に人の気配がするようなので、なおはっきり眼がさめて、気がついてみると、傍の布団に寝てる筈の八重子がいなかった。それが変に気にかかって、だいぶ待って後に、起き上って隣室を覗いてみた。

彼は喫驚した。八重子がしょんぼりと火鉢にもたれて坐っていて、※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)を襟に埋めて考え込んでいた。

「どうしたんだい。」

八重子はひょいと顔を挙げて、何かを見定めるらしく彼の立姿をじっと見つめていたが、俄に寒い風にでもあたったかのように、ぶるっと一つ身震いをした。と殆んどすぐにわっと泣き出してしまった。