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かたきうちきょうだいがさ

仇討姉妹笠

国枝 史郎

「講談雑記」1936(昭和11)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,178 字 · 159 页

青空文庫

陥穽にお八重は落ちたのであった。頼母は壁際に佇んだまま、陥穽の口を見詰めていた。すると、その口から男の半身が、妖怪のように抽け出して来たが、

「お殿様、上首尾です」――こうその男は北叟笑みながら云った。

「そうか。そこで、気絶でもしたか?」

「ノンビリとお眠りでございます。……やんわりとした積藁の上に、お八重様にはお眠ねで」

「強情を張る女には、どうやらこの手がよいようだのう」

「死んだようになっている女の子を、ご介抱なさるのは別の味で……ところでお殿様お下りなさいますか? ……すこし梯子は急でござんすが」

「まさか穴倉の底などへは。……命じて置いた場所へ運んで行け」

「かしこまりましてございます」

奥眼と云われる窪んだ眼、鉤鼻と云われる険しい鼻、そういう顔をした四十五六歳の、陥穽から抽け出て来た男は、また陥穽の中へ隠れようとした。

と、頼母は声をかけた。

「八重めが途中で正気に返ったら、猿轡など噛ませて声立てさせるな。よいか勘兵衛、わかったろうな」

「わかりましてござります」

その男――勘兵衛は頷いて云った。

勘兵衛? いかにもその男は、両国広小路の曲独楽の定席の、太夫元をしていた勘兵衛であった。