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こんにちのぶんがくのしょそう

今日の文学の諸相

宮本 百合子

「都新聞」1940(昭和15)年11月28日~12月2日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,522 字 · 17 页

青空文庫

云ってみればその相異のうちに、日本の苦難な精神史の実績の幾頁かが作者の知る知らぬにかかわりなくたたみこまれているわけで、はなはだ面白く思われる。同時に、巨大な歴史の時代には時空的なものが小説の主人公となって、人間が添景になるということの承認に関しては、作者自身云っているとおり、最も留意し追究すべき点だろうと思う。

個人の経歴の物語、伝記の枠がふみ越えられなければならないということと、如何なる時代も環境も窮極には人間の社会的な関係によっていて、人間の肉体と精神の動きを通じてでなければ実在し得ないという現実の在りようとは小説における人間の添景的位置で解決され切れない意味あいだと思う。

歴史の大きいうねりが、個々の生涯を当人たちの希望にかけかまいなく運び去る事実、あまたの生涯を浪費消耗してゆくすさまじさは現前の事象であるけれど、時空的な流れの描写に人間が添景として扱われるということが、人間の歴史の本質において人間が添景であるということでは決してあるまい。逆にどんな澎湃たる歴史の物語もそこに関与したそれぞれの社会の階層に属す人間の名をぬいて在ることは出来ないという事実の機微からみれば、たとい草莽の一民の生涯からも、案外の歴史の物語が語られ得る筈である。