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こんにちのせいかつとぶんかのもんだい

今日の生活と文化の問題

宮本 百合子

「生活の思索」教材社、1941(昭和16)年5月発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页

青空文庫

だがそれは、今日の一部の青年たちが好んで黒の紋付羽織を着て、袴をばさばさとはいて、白い太い紐を胸の前に下げて歩いている、その好みと合致するものであっても、工場生活の人には合わない。云ってみれば、優秀な技術者の精神は詩吟向ではつとまらないのである。

詩吟そのものは健全であろう。けれども、それのつかわれかたで、生活の文化の問題としては現実に不調和を来し、結果として不健全をもたらすことにもなる。

私たちの文化への感覚は、自分たちの生活に関して現実的に明晰な判断を持たなければなるまいと思う。音楽が好きとか分るとかいうことだけが私たちの文化の内容ではなくして、今日ではもう生活と音楽との相互的な生理がわかるとこまで育って来る必要が示されているのである。

女店員たちの仕舞にしろ、そこには様々の興味ある問題があると思われる。謡曲が、文学として仏教の影響を深くもっていることや、能の発達が封建の大名のお抱えとしてうけつがれて来たことや、それらは誰も知るとおりである。日本芸術の遺産の中で能は独特な評価をもってみられ、それがわかるのが文化を理解するものの当然の嗜みと考えられている。