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こんにちのせいかつとぶんかのもんだい
今日の生活と文化の問題
宮本 百合子
「生活の思索」教材社、1941(昭和16)年5月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页
イギリスの皮肉屋の爺さんであるバーナード・ショウだの、現代物理学の神であるアインシュタインだのが日本の能楽の価値を理解したのは、文化への共感として当然であるけれども、そして、外務省が出版する雑誌やパンフレットに能の美を語る理由もわかるが、そのことと百貨店の娘さんが仕舞をやることとはおのずから別なのである。私たちが生活に即して文化の健全さを云うならば、この二つの場合の生活的な相異を、自分のこととしてはっきり日々の感情の中に感じわけてゆく力こそ、文化の健全さと云い得るのである。
徒らな物真似や模倣を愧じる感覚も、文化の感覚として私たちのうちに美しく磨かなければならないだろうと思う。嘘偽や偽善を身につけまいとする潔癖も、文化の本質にある美しい感覚の宝である。常に事物の本質をわかって行きたいと思う心持こそ、文化の核心の精髄であるとともに、人間の人間たる所以であると思う。
私たちが謙遜な心で今日の生活の諸相を省みたとき、文化の問題が最大の危険としてもっているものは何だろう。
いろいろの点がさされると思う。けれども現在で最も重大なのは、所謂健全なものの不健全な使われかたに対して、私たちのかんがいつとはなし鈍らされて来ている点ではないかと思う。