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こんにちのじもく
今日の耳目
宮本 百合子
「現地報告」1941(昭和16)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,228 字 · 11 页
その家の主人が名誉の戦死をされたかと、通行人はいくらか頭を下げる心でその横を通るのであった。
殆ど同じ頃、その横丁のもう一つところにやはり同じような立札が立てられた家が出来た。それは炭屋であった。文化コンロを並べた店の端れ、どぶ板のところに名誉戦死者某々殿と立ち、そこでも、それは若い主人であったことが、たどんをこねているおかみさんと舅との姿でわかった。
炭は配給制になったから、その炭屋の土間が次第次第にがらんと片づいて、炭の粉がしみ込んだ土間の土ばかり、さっぱりと目に立って来たのもやむを得ない仕儀であったろう。しかし、その立札と段々広々として来る店の土間の光景は、日毎に通るものの目に無心には映らない生活の感情を湛えたものであった。
ざっと一年が経って、去年の秋になった。あちこちで祝出征の旗が見えるようになってその横丁でも子供対手の駄菓子屋の軒に、いかにも三文菓子屋らしい祝意のあらわしかたで紙でこしらえた子供の万国旗がはりまわされた。そこからも出る人があるのだ。ふだんは工場へでも通っていた若い人であるのだろう。トタンの低い軒に旗の飾りはひらひらしているが、出かけるらしい人の姿はその家のあたりに見かけなかった。